認知症・介護・後見

任意後見制度とは?元気なうちに後見人を決めておく仕組みと手続きをわかりやすく解説

高齢の親と家族が話し合うイメージ写真
木田健太郎

義祖母が90歳になったとき、家族の中で「もし判断力が落ちてきたら、財産はどう管理するの?」という話が出ました。成年後見制度のことは調べてある程度わかってきたのですが、その流れで知ったのが「任意後見制度」という仕組みです。

成年後見制度が「判断能力が低下したに」家庭裁判所が後見人を選ぶのに対し、任意後見制度は「判断能力があるうちに、自分で後見人を選んで契約しておく」というものです。「誰に財産の管理を任せるか、自分で決められる」という点が大きな違いで、義祖母を見ていた私たちには「こっちの方が本人の意思が尊重されていい」と感じました。

この記事では、任意後見制度の基本的な仕組み・法定後見との違い・手続きの流れ・費用・注意点を、実際に調べた内容をもとに整理しています。親の認知症対策を考え始めた方、家族信託との違いを知りたい方にも参考になれば幸いです。認知症と財産管理については親が認知症になったら財産はどうなる?もあわせてご覧ください。

任意後見制度とは?法定後見との違いを整理する

任意後見制度は、任意後見契約に関する法律(1999年施行)に基づく制度です。判断能力が十分にあるうちに、将来自分の判断能力が低下したときに備えて、信頼できる人(任意後見人)と「どんなことを任せるか」を事前に契約しておくことができます。

法定後見制度との違い

比較項目 任意後見制度 法定後見制度
後見人を選ぶタイミング 判断能力があるうちに自分で選ぶ 判断能力が低下した後に家庭裁判所が選ぶ
後見人を選ぶのは誰 本人(契約で自由に指定) 家庭裁判所(家族の希望が通らないことも)
後見人になれる人 家族・友人・専門家など(制限なし) 家庭裁判所が適切と判断した人
任せられる内容 契約で自由に設定できる 法律で定められた範囲内
開始のタイミング 判断能力が低下したと認められてから(家裁が任意後見監督人を選任) 申立て→家裁の審判→後見開始
本人の意思尊重 ◎ 高い(事前に本人が決める) △ 低い(第三者が選ぶ)
費用(月額目安) 任意後見監督人報酬1〜3万円程度 後見人報酬2〜6万円程度(専門職の場合)

任意後見制度の大きなメリット:「自分で決められる」

法定後見制度では、誰が後見人になるかを家庭裁判所が決めます。家族が希望しても、裁判所の判断で弁護士や司法書士などの専門職後見人が選ばれることが少なくありません。専門職後見人は月2〜6万円程度の報酬が発生し、亡くなるまで続きます。

一方、任意後見制度では、信頼できる家族・知人を後見人に指定できます。また「財産管理だけ任せる」「医療・介護に関する手続きも任せる」など、任せる内容を契約で細かく決めることができます。本人の意思を最大限に反映できる点が、最大のメリットです。

家族信託との違い

認知症対策として並んで語られることが多い家族信託との違いも整理しておきます。

比較項目 任意後見制度 家族信託
根拠法 任意後見契約に関する法律 信託法
対象財産 財産管理全般+身上保護 主に財産(不動産・金融資産)の管理・処分
身上保護(介護・医療の手続き) ◎ できる × できない
不動産の売却 ○ 後見人が代理で可能 ○ 受託者が可能
裁判所の関与 あり(任意後見監督人の選任) なし(当事者間で完結)
コスト 公証人費用+監督人報酬 信託契約書作成費用(司法書士・弁護士報酬)

財産管理だけでなく「介護施設への入所手続き」「医療機関との契約」といった身の回りのこと(身上保護)も任せたいなら、任意後見制度の方が適しています。家族信託は財産の管理・処分には強いですが、身上保護はカバーできないという違いがあります。

任意後見契約の3つのタイプ

任意後見契約には、いつから効力を持たせるかによって3つの組み合わせ方があります。

①将来型(最も一般的)

今は元気だが、将来判断能力が低下したときのために契約だけ結んでおく形です。判断能力が低下したと認められた段階で、家庭裁判所が任意後見監督人を選任し、そこから任意後見が始まります。費用を最小限に抑えたい方に向いています。

②移行型(最もおすすめ)

任意後見契約と同時に「財産管理等委任契約(通常の委任契約)」も結んでおく形です。元気なうちから日常的な財産管理(通帳の管理、公共料金の支払いなど)を任せておき、判断能力が低下したら任意後見に移行します。

介護施設に入っている方や、一人暮らしで日常管理が難しい方に特に向いています。ただし、財産管理等委任契約の段階では裁判所の監督がないため、後見人予定者への信頼が重要です。

③即効型(特殊なケース)

契約と同時に家庭裁判所へ任意後見監督人の選任を申し立て、直ちに任意後見を開始する形です。すでに軽度の判断能力低下がある状態で利用される場合があります。なお、判断能力が著しく低下している場合は契約自体が無効になるため、この段階での利用は慎重な判断が必要です。

任意後見契約の手続きと費用

任意後見契約は、必ず公正証書で作成しなければなりません(法律上の要件)。口頭の約束や私的な書面だけでは無効です。

手続きの流れ

  1. 後見人候補者と話し合う:誰に何を任せるか(代理権の範囲)を決める
  2. 公証役場で契約書を作成公証人が関与して公正証書を作成する。本人と後見人候補者が公証役場に出向くか、公証人に出張を依頼する
  3. 法務局への登記:公証人が法務局に任意後見契約の登記を嘱託する(自動的に行われる)
  4. (判断能力が低下したら)家庭裁判所へ申立て:本人・後見人候補者・配偶者・4親等内の親族などが、任意後見監督人の選任を家庭裁判所に申し立てる
  5. 任意後見監督人の選任:家庭裁判所が弁護士・司法書士などの専門職を監督人として選任。ここから任意後見がスタート

費用の目安

費用の種類 目安 備考
公正証書作成費用(公証人手数料) 1〜2万円程度 代理権の内容・財産額によって変わる
司法書士・弁護士への相談・作成サポート費用 5〜20万円程度 依頼する場合。移行型は高くなりやすい
登記嘱託手数料 1,400円 公証人が法務局に登記を嘱託する際の手数料
任意後見監督人報酬(月額) 1〜3万円程度 家庭裁判所が決定。亡くなるまで続く
任意後見人報酬(月額) 家族なら無報酬も可・専門家なら2〜5万円 契約で自由に決められる

初期費用は法定後見より抑えられる場合が多いですが、任意後見監督人の報酬は開始から亡くなるまで毎月かかります。長期間になれば総額はかなりの金額になることも念頭に置いておきましょう。

任意後見人に任せられること・任せられないこと

任意後見人に任せられる(代理権を与えられる)主な内容:

  • ✅ 預貯金の管理・払い戻し・振り込み
  • ✅ 不動産の管理・売却・賃貸借契約
  • ✅ 介護サービスの利用契約・施設入所契約
  • ✅ 医療機関との契約・入退院手続き
  • ✅ 税金・公共料金の支払い
  • 遺産分割協議への参加(代理人として)

任意後見人にできないこと:

  • 遺言書の作成(本人のみが行える)
  • 相続放棄(本人が申述するか、後見人が家庭裁判所の許可を得て行う)
  • 生前贈与の決定(本人の意思確認が必要)
  • 身分行為(婚姻・離婚・養子縁組など、本人のみができる行為)

任意後見制度のデメリット・注意点

任意後見制度はメリットが多い一方、知っておくべき注意点もあります。

注意①:判断能力が低下するまでは後見が始まらない

任意後見契約を結んでいても、本人の判断能力が低下していないうちは後見人として活動できません(「移行型」で財産管理等委任契約もセットにすることで対処可能)。また、判断能力低下の認定は医師の診断書をもとに行われますが、軽度の認知症では「まだ大丈夫」と判断されることもあり、スタートのタイミングが難しい場合があります。

注意②:任意後見監督人の報酬が継続的にかかる

任意後見が始まると、家庭裁判所が選ぶ任意後見監督人(後見人の活動を監督する役割)の報酬が毎月発生します。この報酬は家庭裁判所が決定し、本人の財産から支払われます。財産が多いほど高くなる傾向があり、月1〜3万円程度が目安です。

注意③:後見人候補者による不正リスク

任意後見人には大きな権限が与えられます。信頼していた家族や友人であっても、財産を使い込まれるケースが実際に発生しています。任意後見監督人による監督はありますが、日常的なチェックには限界があります。後見人候補者の選定は慎重に行い、定期的に通帳の確認ができる体制を整えることをおすすめします。

注意④:本人の判断能力が必要なタイミングで契約する

任意後見契約は「判断能力があるうちに」行う必要があります。認知症が進行してから「やっぱり任意後見の契約をしたい」と思っても、判断能力がないと公証人が公正証書を作成できません。「まだ大丈夫」と先送りにしていると、手遅れになるケースがあります。70代のうちに準備しておくことが理想と言われています。

任意後見制度が向いている人・向いていない人

向いている人

  • ✅ 認知症になったときに財産を任せたい特定の人(家族・友人)がいる
  • ✅ 介護・医療の手続きも含めて任せたい
  • ✅ 法定後見で「裁判所が選んだ専門職に財産を管理されたくない」と考えている
  • ✅ 判断能力があるうちにしっかり準備をしたい

向いていない人・他の制度が向いている人

  • ⚠️ 財産の管理・運用・承継が主目的 → 家族信託の方が柔軟に対応できる場合がある
  • ⚠️ すでに判断能力が低下している → 法定後見制度を検討する
  • ⚠️ 月々の監督人報酬が家計に重い → 家族信託や他の方法との組み合わせを検討する

まとめ:任意後見は「元気なうちにしか準備できない」制度

任意後見制度は、認知症になった後では使えません。今この瞬間、判断能力があるうちにしか準備できない制度です。この点が、他の制度と決定的に異なります。

改めてポイントを整理します:

  • ✅ 判断能力があるうちに自分で後見人を選べるのが最大のメリット
  • ✅ 財産管理だけでなく介護・医療の手続きも任せられる
  • ✅ 契約は必ず公正証書で(口頭・私的書面は無効)
  • ✅ 後見開始後は任意後見監督人の報酬(月1〜3万円)が継続的にかかる
  • ✅ 認知症が進行する前、70代のうちに準備するのが理想
  • ✅ 財産の管理・承継が主目的なら家族信託との組み合わせも検討する

今日からできる一歩は、「信頼できる人に任意後見について相談を持ちかける」こと。そして、地域の法テラス司法書士会に無料相談の問い合わせをしてみることをおすすめします。義祖母の件で私たちも相談してみましたが、「何から始めたらいいか」が一回の相談でかなり整理できました。

認知症になる前の備えについては成年後見制度とは?の記事も参考にしながら、どちらの制度が家族の状況に合っているか比べてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 任意後見人は家族以外でもなれますか?

A. はい。成年に達した方であれば、家族・友人・弁護士・司法書士など誰でも任意後見人になることができます(ただし、過去に破産した方や一定の犯罪歴がある方などは除かれます)。なお、法人を任意後見人にすることも可能です。

Q. 任意後見契約を結んだ後でキャンセルや変更はできますか?

A. 任意後見監督人が選任される前(後見開始前)であれば、本人または後見人候補者が公証人の認証を受けた書面で解除できます。後見開始後の解除は、正当な理由があれば家庭裁判所の許可を得て行えます。内容の変更は、新たに公正証書を作成し直す必要があります。

Q. 親がすでに軽度認知症と診断されていますが、任意後見の契約はできますか?

A. 軽度の認知症であっても、公証人が判断能力があると認めれば契約できる場合があります。ただし、判断能力の程度は公証人が確認するため、医師の診断書を持参するなど事前に公証役場に相談することをおすすめします。判断能力が不十分と判断されれば、法定後見制度を検討することになります。

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義祖母が2024年に90歳を迎えたことをきっかけに、相続・後見・葬儀を家族で一から調べ始めました。最初は「相続税ってそもそもいくらから払うの?」というレベルで、法務局に電話して手続きを確認したり、銀行の窓口で口座凍結の話を聞いたりしながら少しずつ知識を積み上げました。弁護士でも税理士でもありませんが、「同じ状況の家族が調べたらこうなった」という記録として、費用・期限・手順を具体的に書くことを大切にしています。
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