終活の基礎知識

デジタル遺産とは?SNS・ネットバンク・暗号資産の終活整理方法をわかりやすく解説

スマートフォンとパソコンのイメージ写真
木田健太郎

義祖母の終活を手伝いながら、私が意外と困ったのが「デジタル関連の整理」でした。義祖母自身はスマホをほとんど使わないため問題は少なかったのですが、「もし自分の親が急に亡くなったら?」と考えたとき、ぞっとしました。父のスマホにはネットバンキング、PayPay、楽天ポイント、Amazonアカウント、LINEが入っています。母はInstagramとApple Musicのサブスクがある。パスワードは一切知らない——。

実は、こうした「デジタル上の財産や記録」を総称してデジタル遺産と呼びます。現金や不動産と同じように相続の対象になるものもあれば、放置するとずっと課金され続けるものもあります。終活の準備として、デジタル遺産の整理は今や欠かせない項目です。

この記事では、デジタル遺産の種類・家族が困ること・今日からできる整理方法・エンディングノートへの記録の仕方まで、素人目線でまとめました。終活全体の始め方については親の終活、何から始める?もあわせてご覧ください。

デジタル遺産とは?その種類と相続上の扱い

デジタル遺産とは、デジタルデータやオンライン上のアカウント・資産のうち、亡くなった後に残るものを指します。法律上の定義はまだ確立されていませんが、大きく3種類に分けて考えると整理しやすいです。

①金銭的価値があるデジタル資産(相続財産になる)

種類 具体例 相続上の扱い
ネットバンキング 楽天銀行・住信SBIネット銀行・PayPay銀行など 通常の預金と同様に相続財産
電子マネー・ペイ系 PayPay・楽天Pay・nanaco・Suicaなど 残高は相続財産(サービスにより対応が異なる)
ポイント・マイル 楽天ポイント・Tポイント・ANAマイルなど 原則として相続不可(規約で相続を禁止しているサービスが多い)
暗号資産 ビットコイン・イーサリアムなど 相続財産(国税庁相続税の課税対象)
有価証券(オンライン口座) SBI証券・楽天証券などのネット証券 通常の株式・投資信託と同様に相続財産
フリマ・EC売上金 メルカリ売上金・Amazon出品代金など 未受取の売上金は相続財産の可能性あり

②金銭的価値はないが対応が必要なもの

  • SNSアカウント(LINE・Instagram・Facebook・X〈旧Twitter〉など):放置すると「追悼アカウント」化、または乗っ取りのリスク
  • メールアカウント(Gmail・Yahoo!メールなど):個人情報が大量に含まれるため早めの削除・引き継ぎが必要
  • クラウドストレージ(iCloud・Googleフォトなど):大切な写真・動画データが保存されている
  • ブログ・ウェブサイト:広告収益が発生している場合は相続財産になることも

③費用が発生し続けるもの(早急に解約が必要)

  • サブスクリプションサービス:Netflix・Spotify・Amazon Prime・Adobe CCなど、月額・年額が自動更新される
  • クラウドストレージの有料プラン:iCloudストレージ・Google One・Dropboxなど
  • ドメイン・レンタルサーバー:ウェブサイトを持っている場合
  • スマホの月額料金:契約者死亡後も自動引き落としが続く

サブスクは「毎月自動で引き落とされる」ため、解約しないと家族が気づかないまま数ヶ月〜数年にわたって費用が発生し続けることがあります。実際に、亡くなった方のクレジットカード明細を見て初めて複数のサブスクに気づいたというケースは珍しくないようです。

家族が困ること:デジタル遺産を放置するとどうなるか

「パスワードがわからない」「どんなサービスを使っているかわからない」という状況は、家族にとって大きな負担になります。

問題①:ネットバンキングの残高にアクセスできない

ネットバンキングはIDとパスワードがわからなければログインできません。銀行側に「口座名義人が亡くなった」と連絡すれば口座は凍結されますが、解約・払い戻しには戸籍謄本や遺産分割協議書などの書類が必要です。ネットバンキングは通帳がないため、残高証明書の取得にひと手間かかることも多いです。

問題②:暗号資産が永遠に失われる

暗号資産(仮想通貨)は、秘密鍵(パスワードに相当する文字列)がわからなければ誰もアクセスできません。秘密鍵を紙に書いたメモがなく、ウォレットのパスワードも不明なまま本人が亡くなると、その暗号資産は永遠に誰も使えないまま失われます。ビットコイン全体の中で、こうした「アクセス不能コイン」が数百万BTCにのぼるとも言われています。

問題③:SNSが乗っ取られる・なりすましに使われる

放置されたSNSアカウントはハッカーの標的になりやすいです。乗っ取られると、亡くなった方の名前で詐欺メッセージが送られたり、フォロワーに迷惑をかけることがあります。また、LINE・メールアカウントには個人情報が大量に含まれているため、情報漏えいのリスクもあります。

問題④:サブスクが解約できず費用が膨らむ

サブスクはログインしないと解約できないサービスがほとんどです。クレジットカードを止めれば自動的に解約になる場合もありますが、その前に未払い状態になってしまうことも。また、年払いのサービスの場合、解約してもすでに払った分は返金されないことがあります。

デジタル終活の具体的な整理方法

「何から手をつければいいかわからない」という方のために、ステップ別に整理方法を解説します。

STEP1:使っているサービスをすべてリストアップする

まず、自分が使っているデジタルサービスをすべて書き出します。スマホの「設定→Apple ID」「Googleアカウント→支払いと定期購読」から確認すると、サブスクの一覧が見られます。クレジットカードや銀行の明細を1年分さかのぼると、忘れていたサービスが見つかることもあります。

チェックすべき主なカテゴリ:

  • □ ネットバンキング・ネット証券口座
  • □ 電子マネー・ペイ系アプリ(残高の有無)
  • □ 暗号資産(取引所・ウォレット)
  • □ サブスクリプションサービス(月額・年額)
  • □ SNS・コミュニケーションアプリ
  • □ メールアカウント
  • □ クラウドストレージ
  • □ ネットショッピング(Amazon・楽天など、登録クレカに注意)
  • □ ポイントサービス(残高が多いものは特に)
  • □ ブログ・ウェブサイト(収益があれば相続財産)

STEP2:IDとパスワードを安全に記録する

最も重要なのが、IDとパスワードを家族がわかる形で残しておくことです。ただし、デジタルデータとして保存するだけでは本人が亡くなった後に家族がアクセスできない可能性があります。

推奨される方法:

方法 メリット 注意点
紙のノートに記録 デジタル機器が不要、誰でも確認できる 紛失・盗難に注意。金庫や鍵のかかる場所に保管
エンディングノートに記録 終活情報と一元管理できる 市販のエンディングノートにはデジタル記録欄があるものも
パスワード管理アプリのマスターパスワードを渡す 一つのパスワードで全管理 マスターパスワード自体の保管方法に注意
信頼できる人に預ける 安心感が高い 定期的に更新が必要

エンディングノートへのデジタル情報の記録についてはエンディングノートとは?書き方・選び方もご参照ください。

STEP3:各サービスの「死後対応」を確認・設定する

サービスによっては、本人が生前に「死後の対応方法」を設定できるものがあります。

Googleアカウント:アカウント無効化管理ツール
Googleのアカウント無効化管理ツールでは、一定期間ログインがなかった場合に、指定した連絡先へ通知したり、アカウントを削除する設定ができます。

Facebook:追悼アカウントの設定
Facebookでは、亡くなった後に「追悼アカウント管理人」を指定する機能があります。信頼できる人を管理人に設定しておくと、亡くなった後のアカウント管理を任せられます。

Apple ID:デジタル遺産連絡先
iOS 15.2以降では、Appleのデジタル遺産プログラムで「遺産連絡先」を設定できます。設定した人は本人死亡後にアクセスキーを使ってiCloudのデータにアクセス可能になります。

STEP4:不要なサービスは生前に整理・解約する

使っていないサービスや、死後に残しておく必要のないサービスは、元気なうちに自分で解約しておくのが一番です。特に以下は積極的に整理を:

  • 残高が少なく引き継ぎが面倒な電子マネー → 使い切ってから退会
  • 使っていないサブスク → この機会に解約
  • 複数持っているSNSアカウントのうち使っていないもの → 削除
  • 過去に登録したネットショッピングのアカウント → クレカ情報の削除または退会

暗号資産の相続:特に注意が必要なケース

暗号資産(仮想通貨)の相続は、通常の金融資産よりもはるかに複雑です。

相続税の計算:死亡日の時価で評価

国税庁の通達によると、暗号資産は相続開始日(死亡日)の時価で評価されます。暗号資産は価格変動が激しいため、亡くなったタイミングによって評価額が大きく変わります。相続税の申告(死亡から10ヶ月以内)に向けて、早めに残高と死亡日の時価を確認することが必要です。

取引所に預けている暗号資産 vs 自己管理(ウォレット)

保管方法 相続の手続き 注意点
国内取引所(コインチェック・bitFlyerなど) 取引所に死亡届を提出し、相続手続き書類を提出 取引所ごとに手続きが異なる。取引所名・IDを記録しておく
自己管理(ハードウェアウォレット等) 秘密鍵(シードフレーズ)がなければアクセス不可 秘密鍵の保管場所を必ず記録。紛失すると永久に失われる

暗号資産を持っている方は、取引所名・ログインID・秘密鍵(シードフレーズ)の保管場所を必ず家族に伝えておくか、厳重に管理された場所に記録しておいてください。

ポイント・マイルは相続できない場合がほとんど

楽天ポイント・Tポイント・ANAマイル・JALマイルなどのポイント・マイルは、各サービスの規約で「本人死亡をもって消滅」「相続・譲渡不可」と定められているケースがほとんどです。生前にできるだけ使い切っておくことが、最も現実的な対策です。

よくある失敗・注意点

注意①:家族のスマホを勝手に解除しようとすると犯罪になる可能性

亡くなった方のスマホのロック解除を無断で試みたり、第三者のアカウントにアクセスする行為は、不正アクセス禁止法に抵触する可能性があります。正規の相続手続きを経るか、メーカーや各サービスに「死亡による解除申請」を行う方法が安全です。

注意②:デジタル資産を隠しておくと相続トラブルの元になる

暗号資産やネット証券口座を他の相続人に知らせずに隠していると、後から発覚したときに深刻な相続トラブルになります。相続税申告でも申告漏れとして指摘されるリスクがあります。デジタル資産もすべて財産目録に含めて開示することが原則です。

注意③:クレジットカード情報が残ったまま放置

Amazon・楽天・各種サービスにクレジットカード情報が登録されたまま放置されていると、サブスクの引き落としが続いたり、不正利用のリスクがあります。亡くなった方のカードはできるだけ早く停止・解約し、各サービスからカード情報を削除してもらう手続きが必要です。

まとめ:デジタル終活は「リスト化」と「記録の共有」が全て

デジタル遺産の整理は、「難しそう」と感じるかもしれませんが、基本的にやることは2つだけです。

  • 使っているサービスをすべてリスト化する
  • IDとパスワード・秘密鍵の保管場所を家族が分かる形で記録する

この2つができていれば、家族が困る場面の大半は防げます。

改めて今日からできる一歩をまとめます:

  1. スマホの「定期購読」一覧を開いて、使っていないサブスクを解約する
  2. ネットバンキング・証券口座の一覧をノートに書き出す
  3. Google・Appleの「死後対応設定」を確認・設定する
  4. 暗号資産を持っている場合は取引所名と秘密鍵の保管場所をエンディングノートに記録する
  5. 残高の多いポイントは生前に使い切る計画を立てる

私自身も、この記事を書いてから父と母に「サブスクとネットバンキングのリスト、作っといてほしい」とお願いしました。最初は「めんどくさい」と言われましたが、「パスワードわからないと口座にアクセスできないんだよ」と伝えたら、すんなり動いてくれました。エンディングノートの活用法についてはエンディングノートとは?書き方・選び方も参考にしてみてください。

よくある質問(FAQ)

Q. 亡くなった親のスマホのロックを解除するにはどうすればいいですか?

A. iPhoneの場合はAppleサポートに「相続人である証明書類(戸籍謄本等)」を提出して申請する方法があります。Androidは機種・メーカーによって対応が異なります。ただし、メーカー側でも解除できないケースがあるため、生前にFace IDやパスコードを家族に伝えておくのが最も確実です。

Q. 亡くなった方のSNSアカウントは削除すべきですか?

A. サービスによって対応が異なります。Facebookは「追悼アカウント」として保存するか削除かを遺族が選択できます。InstagramはFacebook同様です。LINEは運営に申請すれば削除可能です。個人情報保護の観点から、使っていないアカウントは早めに削除手続きをすることをおすすめします。

Q. ネット証券の口座はどう相続しますか?

A. 通常の証券口座と同様に、死亡届・戸籍謄本・遺産分割協議書などを証券会社に提出して名義変更または売却手続きを行います。ネット証券でも電話や郵送での手続きに対応しています。口座番号やログインIDがわからない場合は、証券会社に電話して「名義人が亡くなった」と伝えれば案内してもらえます。

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義祖母が2024年に90歳を迎えたことをきっかけに、相続・後見・葬儀を家族で一から調べ始めました。最初は「相続税ってそもそもいくらから払うの?」というレベルで、法務局に電話して手続きを確認したり、銀行の窓口で口座凍結の話を聞いたりしながら少しずつ知識を積み上げました。弁護士でも税理士でもありませんが、「同じ状況の家族が調べたらこうなった」という記録として、費用・期限・手順を具体的に書くことを大切にしています。
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